始めに
始めに
今日はミステリーアドベンチャーゲーム『グノーシア』についてレビューを書いていきます。
独創性 | 完成度 | 快適さ | ボリューム | フィクション | その他 | 判定 |
8 | 8 | 4 | 6 | 8 | 0 | 良(34) |
- ストーリーとグラフィックの完成度
- 魅力的なキャラクター
- 遊びとしては完成度が低い
ゲームフィクションについて
あらすじ
主人公は隔離された宇宙船の乗員。乗員に紛れ込んだ、生物を消してしまう謎の存在「グノーシア」の汚染者を議論でコールドスリープしていくのが目的。 しかし主人公とセツの二人は時間をループしており、二人でループをする原因、およびループからの脱出方法を探します。
萩尾望都リスペクト(『11人いる!』)のトランスジェンダーSF、平行世界・タイムループSF
本作は状況的や話の展開的(いるはずのないアナザーワンをめぐる話)に、萩尾望都『11人いる!』を思わせるパニックホラーSFですが、萩尾作品同様に、本作もトランスジェンダー表象に満ちています。また、どのキャラクターもイキイキと描かれていて、魅力的です。
また、ジョジョシリーズ(4.5.6.7.8)などのような並行世界SF、タイムループSFとなっています。ジョジョ四部のバイツァダストのようなループに巻き込まれた主人公とセツの活躍が見どころです。
サイバーパンク(伊藤計劃、ディック)
本作は電脳世界をめぐるサイバーパンクSFとなってます。グノーシアと呼ばれる存在は、ある目的を持って人間を消しています。伊藤計劃『ハーモニー』のような全体主義SF的な設定が見どころです。
インタラクティブなメディアにおけるプレイヤーの物語への組み込み
本作はビデオゲームというインタラクティブなメディアにおいてプレイヤーの分身や鏡像として現れるプレイヤーキャラクターに関して、ゲームフィクションの上から合理づけな意味づけが与えられています。『ニューダンガンロンパV3みんなのコロシアイ新学期』(トリロジー)、『高機動幻想ガンパレード・マーチ』『ドキドキ文芸部プラス!』『デトロイト ビカム ヒューマン』などと近いでしょうか。
極端に気を衒ったものではなく、巧みなプロットに回収されています。
魅力的なキャラクターたち
本作は人狼ゲームのような裏切り者ゲームを進めつつ、合間にキャラクターのサブイベントが挟まるのですが、一人一人のキャラクターが魅力的で設定も凝っています。本筋に絡むものから絡まないものまで様々ですが、イベントの質は高いです。

リソース不足
小規模な開発スタジオの限界でしょうが、テクスト、イベントなど、全体的にリソースが少ないです。討論パートも他キャラクターは定型文を繰り返すばかりなので、単調なゲーム性に拍車をかけます。『キングダムカム・デリバランス』と近いかもですが、あっちはオープンワールドとしては大ボリュームなのに対し、本作はちょっとスカスカボリュームです。
ゲームメカニクスについて
人狼ゲーム(隠し役割、裏切り者ゲーム、多数決)
本作品は人狼ゲームを進めながら、そこで特定のフラグを達成するとイベントが発生し、イベントを回収し切ると真エンドを迎えることができます。人狼ゲームは知らない人向けにざっくり解説すると、一ターンごとにプレイヤーの中にいる裏切り者を多数決で投票して処刑(ゲームオーバー)し、最終ターンに残ったのが村人なら村人陣営、人狼なら人狼陣営の勝ちです。人狼はターンの終わりに人狼以外のプレイヤーから一人選んで殺害(ゲームオーバー)できます。プレイヤーの役割は隠されていて、人狼どうしは互いの素性を知っています。
それで、このゲームはゲームメカニクスのデザインとしては程度が低いです。まずそもそも人狼ゲームがソロでやってもあまり面白くないので、その時点でもう本作はあまり面白くないです。しかも人狼ゲームというのは麻雀と一緒でかなり運も絡むので、結構な確率でゲームオーバー(プレイヤーのグノーシア化、コールドスリープ)になります。ゲームオーバーになっても特にデメリットはなく次のループがはじまるだけですが、それでもイベントが何も起こらずループが終わる虚しい状況が多いです。
本作は人狼にパラメーターやアビリティの要素が加わっていて、これによって討論での発言力やゲームオーバー回避能力を高められ、終盤になると処刑、殺害される方が難しくなり、これがフラグ管理のシビアさを緩和してはいるものの、とはいえゲームの退屈さはいよいよ増します。
フラグ管理も本当にかなりシビアなので、1ループ(1回のゲーム)が結構長いのもあってイライラします。似たシチュエーションの『Outer Wilds』では、ループを繰り返す原因の不確実情報を探り謎を解いていくのが高クオリティのアドベンチャーとしてデザインされていましたが、本作の魅力はもっぱらフィクション部分にあり、ゲームメカニクスのデザインは古臭いです。
探索
アドベンチャー要素
本作のアドベンチャー要素は、人狼ゲームで特定の条件をこなすと発生するイベントをこなしていくデザインです。フラグは分かりずらくて、一昔前のアドベンチャーという感じです。
推理要素は希薄。そもそも人狼ゲームである必要も希薄
本作品は推理要素は希薄で、シナリオを構造的に捉えて適切なナラティブチョイスを図るような場面も少ないので、『ダンガンロンパ』シリーズや『逆転裁判』シリーズを期待すると肩透かしを喰らいます。ゲームとしての完成度はそうした作品にかなり劣っています。
あとそもそも論として人狼ゲームをやる必然性のようなものをあまり感じないというか、シナリオの構造上ワンプレイが適当な長さで繰り返し最初からやるタイプのゲームメカニクスが必要だから入れたくらいの感じです。例えば似たようなワンプレイが短く繰り返されるゲームメカニクス『Road96』では、ナラティブチョイスなどによる独裁国家からの脱出ゲームは物語の主題と分かち難く結びついています。本作における人狼ゲームは作品のテーマとそんなには関係ない印象です。
本当にフィクション部分が肝のゲームなので、これだったらいっそ総当たり式のADVでもよかったくらいですが、それだとボリューム不足が目立つでしょうか。